ビッグデータ時代の新マーケティング思考(横山隆治、海老根智仁、鹿毛比呂志共著)

ビッグデータ時代を迎えて、ネットでのマーケティングがどのような方向へ向かっているかを示唆する良書です。

従来のアスキング型のリサーチの加えてソーシャルメディアの普及によりリスニング型の比重が高まる。この場合過去に遡るなどの調査が容易なことも大きな利点になる。

ターゲットの選定は送り手主導=プッシュ&固定的から受け手主導=プル&動的な方法が増加しており、ウェブサイトでの広告も「枠」からターゲットをクッキーで判別して特定の「人」へと変化している。Facebookでは企業のCRMデータと照合してピンポイントで広告を表示させるなども行っている。

最近脚光を浴びているトリプルメディアマーケテングの要素であるオウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアなどもCRMと合わせて情報を統合してアトリビューション分析やプロファイリングなどでターゲティングに活用しPDCAを回す。

これらは、リクルート社など大手企業の事例にあるようなことですが、今後は様々な企業に広がっていきそうです。中小企業などには、Amazon Elastic MapReduceなどのクラウドビッグデータ処理サービスとオウンドメディア、アーンドメディアの組み合わせで安価に企画から運用までサポートするようなビジネスなども有望ですね。

BE ソーシャル! ―社員と顧客に愛される5つのシフト(斉藤徹著)

前作「ソーシャルシフト」では、ソーシャルメディア活用の観点から経営を論じていた斎藤徹氏でしたが、本書「BEソーシャシル」では真っ向から経営に切り込みます。

世界において創業200年以上の企業の半分以上は日本企業、近江商人の理念である「売り手良し、買い手良し、世間良し」、日本資本主義の父、渋沢栄一の「私利を追わず公益を図る」など日本企業の持続可能性がソーシャルメディア時代の透明性や絆につながるとして、古くて新しい企業のあるべき姿を豊富なケーススタディと共に説きます。

本書を1/3程読んだところで、著者である斎藤徹氏の講演を拝聴する機会がありました。とてもビジネスとして有益な講演でありながら、やさしさと人間愛に満ち溢れた雰囲気、これは氏のお人柄でしょうね。

100円のコーラを1000円で売る方法2(永井孝尚著)

100円のコーラを1000円で売る方法2(永井孝尚著)
前作でコトラーキャズム理論などのマーケティング手法に則り「社長の会計」をヒットさせた宮前久美に襲い掛かるピンチ、これをポーターやラチェスター戦略を武器に乗り切ります。ワクワクドキドキするうちにマーケテング理論の勉強になる素晴らしい一冊です。

"創発戦略"が強く刺さったので次に引用しておきます。

「実行する前から完璧な戦略はありません。最初は戦略をしっかり考える一方で、メンバーがいろいろ試行錯誤して学びながら、よりよいものに仕上げていく。つまり"創発戦略"と組み合わせることで戦略も進化するんです。ロンロンや井上クンが頑張って難問を解決したように、個人の学習や成長をうながすことで、チーム力も増やしていきます。」

ラストがまた秀逸、これではパート3を期待せずにはいられませんね、「課長島耕作」のように宮前久美の出世を楽しみにしたいと思います。

蛇足、前作では左右に散らばっていた図が今回は左側に統一されています。これこそ中経出版と思っているのは私だけでしょうか?

ミッシングリンク デジタル大国ニッポン再生(谷脇康彦著)

ミッシングリンク デジタル大国ニッポン再生(谷脇康彦著)読書メモ

インターネットビジネスの世界での日本の状況を憂う著者が、機器とサービス、供給者と利用者、情報通信産業と他産業、国内と海外、官と民、それぞれのミッシングリンクに着目し、統計資料を基に最新のテクノロジーや勃興する新しいビジネスモデルを紹介し、これからの日本の進む道を示唆する。

自分のようなSI/ソウトウェア開発を生業とするものにとって、今まさに課題となっているところを次に引用する。

情報通信関連の機器・サービスの「コモディティ化」という現象を情報通信産業にとってのデメリットととらえるのではなく、社会全体にとってのメリットとして活かす方法を考える必要がある。情報通信産業と他の産業の間のミッシングリンクを埋めるためには、これまでとは違う協業関係を異なる産業間で、つまり産業の枠を超えて築く必要がある。

本書で紹介されている地域商店街向けの「地域業務クラウド」などはこの好例、ここでは既に(推測ですが)機器とサービス、供給者と利用者、情報通信産業と他産業のミッシングリンクは埋まっている。

官と民のミッシングリンク、ここではセキュリティ関連などを中心に他国の状況などを解説するに留まっている。霞ヶ関にいて思いは募れどじっと堪えて「民」からの提案を待つといったところでしょうか、このあたりは様々な人と議論してみたいところです。

五つのミッシングリンクという着眼点、このような考え方のフレームワークは現状の問題をより分かりやすく浮き上がらせる効果があってとても良いですね、大変勉強になる一冊でした。

<補足>

日本の状況を憂う前に自社の状況を憂う零細IT企業経営者としては第一に顧客のビジネスを理解して一体感を持てる(要件定義してシステムを開発して運用するだけじゃないってことね)ような意識改革を第一として、BtoCなら利用者とのコラボ、他産業との共創そして機器との連携などに向かっていくことがミッシングリンクの環を繋ぐ一歩だな。

「日本」の売り方 協創力が市場を制す(保井俊之著)

「協創力」は「システムズアプローチ」X「場」、そして「協創力」は本来日本人に備わっている資質として、改めてそれを体系的に運用することこそ、これからの『「日本」の売り方』と説く。

東北大震災以後、市井の人々が様々の協力を重ねて日本を混乱から守ったり、企業が企業の枠を越えて一致協力し工場などが当初の予定をはるかに上回るスピードで再稼働にこぎ着けた例を挙げ、更に仏教からくる因果のループなどから日本人こそ「協創力」に向くと持ち上げるのだが、冒頭での国際商戦で残念な結果に終わる理由が気になってしまう。ここでは国際基準的なマネジメントの手法を持たず、仲良しクラブ的オールジャパン弱者連合が敗因と分析しているのだ。
「協創力」は「システムズアプローチ」X「場」、更に「システムズアプローチ」をものごとの繋がりを見つけ出す方法論である「システム思考」、ものごとの繋がりをデザインする「デザイン思考」そしてものごとを繋げていく運動や事業の進め方の方法論である「マネジメント思考」の三つの方法論を統合したものだとして、その様々な事例を多岐に渡って紹介している。広く浅くで散漫な印象は拭えないが自力で帰納的に整理して勉強せよとのことと理解したい。
また、終章で日本企業は「協創力」を重視へ舵を切り、これまでのやり方を見直して新しい価値を生み出す戦略マネジメントの能力育成に急激にシフトしているとして、新卒・転職問わず、企業が人材採用で今後重視していきたい能力のトップは「コミュニケーション能力」とのことだ。

TwitterfacebookなどSNSの台頭もあり日本では「つながり」と「場」の活用は盛んになってきている。ここでも重要なのは「コミュニケーション能力」であることは疑いのないない事実だ。だがしかしコミュニケーション能力とは雄弁に話すことだけではない。以前とあるクラウドベンダーの営業さんとお話ししたとき、彼は自社製品について隅から隅まで話して帰り、とあるコンサルティング会社の営業(コンサルタント)さんは弊社のことを隅から隅まで聞いて帰った。後者が真のコミュニケーション能力であり、それをを育成するのが「協創力」への第一歩だ。先ずは経営者自らですね、マリアナ海溝より深く自戒を込めて。

日本企業復活へのHTML5戦略(小林雅一著)

HTML5を巡るアップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなど米IT列強の駆け引きから、家電ニッポンの復活戦略までを熱く語り、HTML5を出遅れた日本のITビジネスの救世主と説く。

ソニーは傘下にレコード会社を抱えてしまったので、CDの売り上げが落ちることを恐れて、デジタル音楽プレーヤーやオンライン音楽配信をへの取り組みがおろそかになった。」とある。これは今まで行ってきたビジネスありきで新しいビジネスを考えているのであって、消費者にとって何がベストかを考えていないことになる。

HTML5でのビジネスでも徹底した顧客目線で何が顧客(消費者)にとってベストなのかを考えることが重要、そして賛同する仲間を募って(信頼関係を構築するのは言うまでも無い)ネイティブアプリに対抗できるようなエコシステムを構築することだ。

おまけ、HTML5の主な機能など。
HTML5の主な機能は「Tag」と「API」から提供され、HTML5で追加された代表的なタグ(Tag)は、ビデオやオーディオの再生を行う

javascriptから呼び出すAPIには、オフライン機能を提供する「Web Storage」、端末の位置情報を提供する「Geolocation」、ブラウザ上でドラッグ&ドロップ操作機能を提供する「Drag & Drop」、サーバーとクライアント間のリアルタイム・コミュニケーション機能を提供する「Web Socket」、プログラムのバックグラウンド処理を行う「Web Workers」などがあり、まだ発展途上だ。

また、マッシュアップなどを目的とした複数のドメインと交信するクロスドメイン通信やアプリやデータを端末側に確保してネットワークが繋がらなくてもアプリを使うことが可能なオフライン機能も便利な機能ではあるものの、セキュリティ的には注意が必要だ。

HTML5はiOSやAndroidのネイティブアプリ無しでもかなりのことができそうです。FRONTiER-Androidの次はiOSのネイティブアプリに心が傾きそうになりましたが、次はやはりHTML5版にしようと思う。

遠距離交際と近所づきあい 成功する組織ネットワーク戦略(西口敏宏著)

温州人のネットワーク、トヨタサプライチェーン、英国の国防省そして著者自ら「防衛調達制度調査検討会」の正式メンバーとして参加した日本の防衛庁(現防衛省)などの研究結果に基付く「遠距離交際と近所づきあい」、を社会学あるいは経営学の立場からネットワーク理論を取り込みじっくりと解説している。再読で少しは理解が深まった気がするが、かなり深い考察(自分の理解力不足の可能性が高いが^^;)をしているのでもう少し読み込む必要がありそうだ。

温州人ネットワークでは地縁・血縁(近所づきあい)を中心としながらも広く海外までのネットワークを持ち、地域内そして海外でもそのネットワーク内でのコミュニケーションでそれぞれが発展する様子が良く分かる。
トヨタサプライチェーンでは一次請け、二次請け、三次請けなどの縦の関係に対して勉強会などで横串をいれ(これが遠距離交際に当たる)スモールワールドを形成している。そのスモールワールドがアイシン精機で火災が発生した時、直接取引関係に無かった企業が一致協力して迅速なリカバリ行った。その状況を分析することで、遠距離交際の重要性を説く。
また、組織が大きくなると、部門間が断絶し部分最適が跋扈することで全体最適が失われがちになる。そのもっとも典型的な政府機関で部門を横断する「ケーパビリティー」を定め組織間のインターフェースを再構築(これも遠距離交際にあたる)し全体最適を図ることでコスト削減などを実現したのが、英国の国防省や日本の防衛庁の実例だ。

著者が企業研修などで講演をなどを行うことがあるとのこと、長期に渡って業績の良い会社では、皆が活気に満ち、職位にかかわらず言論の自由があり、初対面の講師にも親しげに話しかけてくる人が多いとのこと、それに対して業績の低迷している会社は雰囲気がガラリと異なり、多くの受講者が斜に構え、会社命令だから仕方なくきたとの態度だそうだ。これには講師である著者もさっさと退散したくなるとのこと、逆に前述の業績の良い会社の人たちだと講演が終わってから一緒に酒でも飲みたい(もっと接したいとの著者の表現をわかりやすくしてみましたw)と思うとのこと。著者はこの件をトポロジー(人の関係)の違いが人々に大きく影響する例として、挙げています。これもパットナムの「哲学する民主主義」における北イタリアと南イタリアと話とよく似ている。

補足

ここでの重要なテーマは濃密な「近所づきあい」に「遠距離交際」いかにを組み入れていくかです。これを著者は情報伝達経路の繋ぎ直し、すなわち「リワイヤリング」と定義しています。例えば、Aさんの友達がBさん、Bさんの友達がCさん、Cさんの友達がDさん、Dさんの友達がEさん、Eさんの友達がFさんのような関係があったとして、BさんとCさんの紹介でAさんとDさんが知り合う、そしてそのDさんがEさんの紹介でFさんと知り合う、といったことが(例としては人の隔たりが小さいですが)リワイアリングです。

また、リワイヤリングされた遠距離交際の関係は「弱い紐帯」と呼ばれ、情報の冗長性が低い、言い換えると同質性が低いので近所づきあいでは得られない情報が得られる、これを「弱い紐帯の強み」という。この説は転職は普段の繋がりの薄い人からの情報が役に立ったというマーク・グラノヴェッター氏の調査結果からの説で、社会学での重要な功績とされている。